風邪をひいていたわけである。

風邪をひくとはどういうことか。咳が止まらないのである。
普段から不健康そうに見られる自分だが、意外や意外、じつは健康である。病院にはここ数年、健康診断以外で行ったことがなく保険証もピッカピカである。万年肩こりだけど、それを除けば超健康。さすが、「バカは風邪ひかない」ものだ、と我ながら自分に感心していたのである。

しかし今になって風邪をひいた。

なぜ今さら風邪をひいたのか。ついにバカが治ってしまったのだろうか。バカじゃなくなったから風邪をひいたのか。
でも頭が良くなっているという自覚もない。はて。なんだこれは。
そこで考えた。
いま頭が良くなったとは思えないということは、もっと前から頭は良かったんじゃないか自分は。
ん? そうか前から頭が良かったのだ。
つまり、今までもバカじゃなかったのだ。

今までもバカじゃなかったということは、これまでも風邪をひいていた可能性はある。
ん? ということは、今まで風邪をひいたときにはそれに気づいていなかったんじゃないか。
そうか、風邪に気づいていなかっただけか。

そういえば昨年の夏頃、新型インフルエンザが流行していた頃の話だ。
まだ東京でも感染者が数少なかったとき、オフィスで隣の席に座っていた人がその新型インフルに感染した。当時の報道では「かかったらすぐ死ぬ」ぐらいの扱いだった新型インフル。周囲はパニックに陥っていた。当然、隣の席に座っていた私も感染している可能性が極めて高いと考えられるわけで、周囲からは「新型インフルを発症しそうな人リスト」に入れられていた。

しかしそこは超健康の自分である。
一切インフルエンザにはかからなかった。

私がピンピンしている間に、周囲の人は続々とインフルエンザに感染していった。昨日もひとり、今日もまたひとり、という具合に……。

そのときは、自分だけがインフルエンザにかからなくて超ラッキー、なんて思っていたのである。

しかし、だ。
今振り返ると、あの頃、妙に頭が痛くて気持ち悪いときがあったことを思い出す。なんかよくわからないから、適当に手元にあったセデスを飲んでやり過ごしたわけだが、今思うとあれは、インフルエンザだったのではないだろうか。
自覚がなかったから、インフルエンザにかかったということに気づいていなかっただけではないのだろうか?

バカは風邪ひかないというより、バカは風邪に気づかないのだ。

年齢を重ねると妙に健康の話題が聞こえるようになってくる。オトナになると自分の体の変化に敏感になり異変に気づきやすいのだろう。オトナになるということは、風邪に気づかないバカを卒業していくということか。
そんなことにいちいち気づくようになってしまうオトナって、なんだか寂しいな。
あぁ、バカが愛おしい。