日本中を飛び回る仕事をしていたことがある。
文字通り北は北海道から南は沖縄まで駆けめぐっていた私は、主人公ライアン・ビンガムほどはいかなくとも、アレックスのように年間で6万マイルぐらいは貯めていたはずだ。

だから冒頭からはじまる、主人公が空港ゲートをスマートに移動する姿、マイレージを異常なほど集める彼の気持ちはよく分かって、笑うべきシーンだったのだけど自分と被って「苦」笑いしてしまったのだった。
私も荷物をいかに効率良く詰めるか、どうやってスーツケースを身軽に動かすか、なんていうノウハウを次第に貯めていったものだった。

映画「マイレージ、マイライフ」。アカデミー賞にノミネートされたものの、結局一部門も取れなかったということで上映館数も多くはない作品である。
だから期待をあまりすることなく見に出かけた。

それがどうして──。
いまこの瞬間、この作品に出会えたことに、私は感謝している。

映画のストーリーは以下の通り。(viaシネマトゥデイ
仕事で年間322日も出張するライアン(ジョージ・クルーニー)の目標は、航空会社のマイレージを1000万マイル貯めること。彼の人生哲学は、バックパックに入らない荷物はいっさい背負わないこと。ある日、ライアンは自分と同じように出張で各地を飛び回っているアレックス(ヴェラ・ファーミガ)と出会い、意気投合するが……。
主人公ライアンは、自分が落ち着く場所は「空港」であり「飛行機の中」という人間である。見方によっては、仕事中毒の人間にも見える。バックパックに入らない荷物、そして恋人も家族も持たない。しかしそのライアンが、ひょんなことからそのスタイルに変化を起こしはじめる、という物語である。

今でこそ全国出張は本職ではしていない私だが、なんだか主人公と自分が被って仕方なく見えた。
仕事をしてマイレージを貯め、ポイントに換算されるステータスに満足を覚え、そして恋人や家族などの「無駄な」人間関係を信じない。物語が進むにつれて、これは自分のことを言っているんだと心底感じながら見ていた。

自分が生きている意味は、何かを為すことにあるのだと思って生きてきた。
だから仕事をして何かを為すために、生きていた。仕事とかキャリアとか社会に対する将来の夢とか目標とか、そんなことを考えながら生きてきた。
私が仲良くしているキャリア系の友人たちとか、バリバリ起業系の友人たちなども、同じ視点だろうと思う。

しかしこれは本当に正しいのか?
とたまに思うことがある。

仕事やキャリアに対する思いに変化が生じる機会は定期的に訪れるものだ。前回私の仕事の価値観が大きく揺らいだのは、3年半前である。そのとき書いたエントリーを読み返したら友人のコメントがあった。(viaみやっち)
みんな、いろんな価値観で、いろんな想いをもって仕事をしているよね。

当時、仕事とは誰もが全力で行うものだと信じてやまなかった。でも少しずつ、多様な働き方の価値観を認められるようになったのがこのときである。

しかしそうは言ってもそのときから、いやそれ以前から、自分自身の夢とか目標とかそういうものは変化していなくて、だからマイライフプランはそのまま変わらないものとしてあった。
けれどこの年齢にもなると、このままでいいのかな、と頭をよぎる。
「おまえいつ寝てるの?」状態で仕事をしていたバリバリ起業系の友人たちの中にも、家族のためにゆっくり生きようとしはじめた人がいる。
バリバリキャリア系の友人たちの中にも、気づけば仕事を変えて結婚をし、夫婦での時間を大切にしようとしている人がいる。
働くうえで家族や恋人なんてお荷物なんじゃないか、と思っていたような人たちなのに。

「マイレージ、マイライフ」で、主人公ライアンも、割り切った考え方をしていることがよくわかる。バックパックに入りきらない恋人や家族は、無駄なものとして大切にしない。いや、作らない。

かくいう私も、かつて学生時代に【雑感】結婚したくないと書いている。同じようなものだ。
主人公よ、お前はオレか?、状態である。

ただしこの映画、単純に「家族を持つと幸せですよ」と言っているわけではない。主人公ライアンはとある行動を起こすが、それはハッピーになる結果ではない。ある種現実をそのまま見せつけられた形で、せっかく人間関係という無駄なものに目を向けたのに、絶望するぐらいの勢いだ。

私はこの絶望を見て、自分のことかと涙した。

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この映画は、何も結論を教えてくれない。
でも私は絶望的な主人公を見て(私にとっては果てしなく絶望的に見えるのだ)、少し救われた。
あぁ、結局今のまま社会に対する夢や目標だけを持ち続けるのもつらいし、かといって無駄に見える恋人や家族のことだけだってつらいのだ、と知れた。そのことで救われた。

私はこの映画を、自分の周りにいる仕事中毒の人に薦める。
同世代の、仕事と結婚のはざまで悩む友人たちにおおいに薦める。

とりあえず私は、最近自分がバカじゃないことに気づいてしまうぐらい心境変化があったのだけれど、ちょっぴり持ち直そうと思った。
将来の生き方とプライベートとに考えあぐねるこの瞬間に、この映画に出会えたことに感謝している。