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前回の続き)

■マイクロファイナンスは人をハッピーにするのかという根本問題
そこで根本的な悩みにぶつかる。
金融アクセスも容易になり、その結果の資金調達によりビジネスを成功させ貧困から抜け出す人があらわれたら、それでハッピーなことなのだろうか。
少なくともビジネスを成功させた個人はハッピーだろう。でもそれ以外の人たちはどうなるのだろうか。

ビジネスを成功させた人は、人を雇いビジネスをさらに拡大させ、資本家の仲間入りをするだろう。
一人の成功者が現れることで国全体がみんな「一緒に揃って」良くなっていくのであればハッピーなことだ。でも、みんなで「一緒に揃って」良くなるイメージが、残念ながら私にはできなかった。もしかしたら、マイクロファイナンスによって、新しい資本家を育成し、そして新しく「搾取される側」を生産している可能性もあるのではないか。

例えばマイクロファイナンスでも与信があり、すべての融資希望者に必ずお金の貸付ができるわけではない。与信を否決された人はどうなるのだろうか。

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DSC_0204 posted by (C)nekodemo

■それでも存在するマイクロファイナンスの意義
一方でこの反論としては、極端に言うとそれまでそもそも「搾取される側」でしかいられなかった人が、マイクロファイナンスによって自立する選択肢を得た、という点に意義があるとも言える。成功できるかどうかは個人の努力や才覚次第だが、少なくとも選択肢を得られるということは素晴らしいことだ。

また、現地で聞いた話では、田舎ではいわゆる地域の共同体的な感覚が根強く残っているとのことだった。例えば返済が滞りそうになってもビジネスライクに貸しはがしをするのではないという、マイクロファイナンス機関の職員の「弱者を切り捨てない」ハートを感じた。この共同体の良いところが、もしいろいろなところで成り立っているとしたら――。いや、これは私が勝手に抱くユートピア幻想か。

戦後の日本はみんなで「一緒に揃って」成長できたわけだ。カンボジアでも難なく「一緒に揃って」成長できるのだろうか。
悲観的な私はそう思えない。かつての日本人で言えば、搾取するのは日本人全体で、搾取されるのは外の途上国全体であった。しかし、どうも最近は一つの国の中で搾取する側と搾取される側に分かれるのではないだろうか。


■投資家としての選択肢の限界
そんなさまざまな疑問があり、マイクロファイナンスにどこまで夢を託していいのか分からないという感想を私は持った。一緒に視察ツアーに参加した投資家の方のなかにも、「別にこれって貧困削減になってなくない? もうこれからは投資しないことにしたよ。」と言っている方がいた。(スタディツアーなのにそんな発言を許すツアー主催者もなかなか心が広い。)

じゃぁ自分はどうするかと考えると、ぶっちゃけマイクロファイナンスへの投資がだめだったとして、他にロクな投資先がないというのも事実で、マイクロファイナンスへの投資をやめるということは出来ない気がしている。
そもそもそんなにお金持ってないけど、将来が不安がゆえに蓄えをしようというのに、この状況をどうしたらいいというのか。ただお金儲けをしたいだけでリターンを追求するなら、他にいくつでも投資方法は考え付くだろう。しかしついでに「社会にいいこと」をしたいときの投資先は、他に一体どこがあるというのだろう。鎌倉投信にでも投資しておけばいいのか。それも結局同じ結論に達する気がしないか。もしかして、利益を追求する資本主義の限界なのか。
かといって社会主義になったらみんな「一緒に揃って」貧乏になるわけで、それもイヤだ。

結局、積極的に投資したい投資先がない。信金に預けて国債の購入費用に充てられるという超残念なお金の使い方よりも、マイクロファイナンスのほうがまだいいかもしれない、という消極的選択でこちらを選ぶのである。


■これからのカンボジア、そして日本
カンボジアは経済成長をし、日本との経済格差はより縮まるだろう。何十年後かには、逆転される可能性すらあるかもしれない。それは良い悪いでもなく、日本がヘタレたとかいう問題でもなく、フラット化する社会の節理だ。
しかし本質はそこではない。
その経済成長の過程において、日本国内でもカンボジア国内でも、それぞれに深刻な経済格差が生み出されることを危惧している。これまで目が向けられていなかった新たな弱者の誕生である。

語弊を恐れず言えば、今までの日本人は、じつに牧歌的に途上国を「救う側」でいたが、今後は救う側と救われる側に分かれるのだろう。そのとき、グローバル資本主義の搾取構造は今と変化しているのだろうか。マイクロファイナンスのような、資本主義にうまく寄りかかることで生み出された貧困削減の仕組みは、そのときどこまで機能できているのだろうか。
結論は、まだ出ない。

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