京都を拠点にする劇団「地点」のパワハラ問題が騒がれている。
私も、地点の作品や、三浦基氏(地点の主宰)が演出した作品は何度か見たことがあるので、この問題について考えてみよう。
日常的なパワハラ・モラハラを経て、突然の即日解雇
演劇と映画の現場に、今も存在する理不尽な力関係に抗うべく劇団“地点”に団体交渉を申し入れました!
via 劇団“地 点”解雇事件 試用採用を経て社員として入団した舞台俳優Aさんに対する一方的な解雇事件!

とは言っても、パワハラがあったのかどうかの認定は、内部事情を知らない部外者が勝手に書けるものでもないので、省く。

それよりも、このパワハラ事案について、労働組合がかんでいるという点にフォーカスしてみたい。

そもそもこの事件は、労働組合側からの発信によって世間に知られるようになったわけだが、労働組合はもちろん労働者の味方であるわけで、この問題についても、「雇用主(地点)」が「労働者(役者)」にあり得ないことをした、というフレームをつくったうえで語っている。
庶民が労働組合からの情報をそのまま読めば、「なんていうパワハラだ! けしからん!」という意見になる人が多いと思う。が、それは労働者の味方をしている前提の構図だからそうなるのは当然である。

一方で、地点側にも言い分はあるだろう。
まず、地点(三浦氏側)としては、パワハラがあったかどうかを争点にするだろう。
そしてもう一点、そもそもこの地点という劇団に所属するメンバーは、労働者ではないと言うのではないか。
私がもし劇団側の人間で、劇団を守らなければいけない立場だったら、「劇団員は労働者じゃない」って言うと思う。

つまりこういうことだ。
地点に関わっている演出家も役者も制作も、全員が個人事業主の集合体であり、会社組織ではない。ようは役者に労働者性は否定されるものである、と。
労働者じゃないので、労働組合の団体交渉には応じられませんよ、というわけだ。

だが、実態として劇団というものは偉大な名物演出家がいて成立するものだ。地点も例外ではない。
役者は権力を持つ演出家に従わざるを得ないパターンが多いわけで、地点でもそうだったのかななんて邪推する。
そんな状態だったときに、演出家と役者が、一般的な個人事業主同士のような対等な関係があると認定できるかどうか。


蛇足だが、私がよく頭を悩ます税務でいえば、税の通達で、個人事業者と給与所得者(労働者)の区分の基準を示している。

(1)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
(2)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
(3)まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
(4)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
via 消費税法基本通達1-1-1

この基準で言えば、小劇場の役者は公演への出演にあたってそのポジションを他人に代わってもらえるわけがないし、演出家から指揮監督を受けまくるし、公演中止したらギャラもらえないだろうし、衣装やメイクは劇団もちだろうから全部あてはまらない。どうも労働者性を強く感じてしまう。
(ただし、上記はあくまで国税庁が税金徴収するための基準なので、本来は労働関連法で労働者性を判断すべき。)

なお、そもそも契約が個人事業主としての契約だったとしても、実態として労働者性が肯定されれば、それは労働者同等になり得る。
税分前にプロ野球の選手会がストライキをしたことがあったけど、あれは選手会が労働組合として認められてたってわけだ。

パフォーミングアーツの分野でもこれが争点になったことは過去にもある。
いわゆる新国立劇場運営財団事件である。

○以上の諸事情を総合考慮すれば、AはX財団との関係において労働組合法上の労働者に当たると解すべき。
via 新国立劇場運営財団事件の最高裁判決(概要)

上記は新国立劇場のオペラの事例で、最高裁において出演者に労働者性があると肯定された。パフォーミングアーツにも例外はないのである。


ところで、本来であれば劇団主宰と役者やスタッフの間に、信頼関係があれば、雇用だろうが業務委託の個人事業主であろうが、こういう問題は表面化しない。パワハラだ不当解雇だなどと揉める前に当事者同士で解決されるはずである。
地点のパワハラ疑惑は、当事者同士で解決されることなく平然と外部に出てきてしまっているわけで、パワハラが事実かどうかの以前に、つまり劇団内部がごたごたしていることが発覚してしまったわけである。
そういう集団がつくる作品を、今後 観客として純粋に楽しめるかどうか、私には全然自信がない。

今年破産した演劇集団キャラメルボックスは、給与未払いでも役者が舞台に立っていたという。その役者が雇用契約なのか業務委託契約なのかよくわからないけど、仮にここに労働者性があったとしても、役者たちは労働組合をつくって未払い賃金に関する団体交渉はしていなかったのだろう。
別にキャラメルボックスを美談にするつもりはないが、労働者として不利になることが分かっていても劇団を第一にする役者がいたキャラメルボックスと、あれこれ揉めて団体交渉を申し込む役者がいた地点と、このコントラストは大きいなと思うわけである。