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シンチャオ!
(ベトナム語のあいさつです。)

そんなわけで、ベトナムにマイクロファイナンスのスタディに行ってきた。
ハノイから車で二時間ほど離れたところにある とある村で、マイクロファイナンスで実際に融資を受けている方にお話を聞き、そしてマイクロファイナンス機関TYMの支店や本部(ハノイ市内)にも行ってきた。

スタディツアーに参加した経緯としては、私がマイクロファイナンス貧困削減投資ファンドに投資してるから。(ミュージックセキュリティーズが取り扱ってるやつです。)
ということで、今回は、同様にこのファンドに投資してる他の投資家の皆さんや、このファンドを販売しているミュージックセキュリティーズの方、企画やモニタリングをしているLIVING IN PEACEの方と一緒にベトナムへ出かけたのでした。

聞いたこと、思ったことをつらつら書きます。


■融資を受けている人はどんな人?


マイクロファイナンスの融資対象となるような人たちは、そもそもベトナムの「普通の」金融機関から融資が受けられない。なぜ融資が受けられないかというと、信用力の問題と、そもそも金融機関の支店やATMが近所になく決済ができないためだと見受けられた。

そこでマイクロファイナンスが登場する。(国としてもマイクロファイナンスを支援しており、ベトナム最大手のマイクロファイナンス機関は政府がやってるところらしい。)
今回おじゃましたのはTYMというマイクロファイナンス機関。

TYMの場合、融資を受ける人たちは そんなに多額の金額を借り入れているわけではない。例えば今回お話をうかがった方(Aさんとしよう)だと、はじめて融資を受けたのが1997年でそのときは(今のレートの日本円換算で)2,500円分借りたとのことだった。(1997年当時のベトナムの物価がわからないのであれだけど、どうやらそんなに大きい額ではないみたい。)2,500円を借りて、それを毎週50円ずつ返済し、1年で完済したそうな。で、Aさんは今は100,000円借りてると言ってた。
資金使途としては、Aさんのだんなの仕事(バイク修理)の設備投資。途中借りたお金で家を建てたこともある。
マイクロファイナンスによる融資があったおかげで、生活水準をあげられていった模様。最近ではわずかながら貯金もできるようになったとのこと。

もうひとり、Bさんのお話も聞いた。Bさんも1997年に2,500円相当の借り入れからスタートしたと言っていた。
Bさんは、ニワトリを飼う仕事をしている。数年前にだんなさんを亡くしているが、そのとき保険金がおりた(ようなことを言っていた)。今も「貧乏です」というようなことを言っていたが、保険があることなどはありがたいと言っていた。貧乏ですと言いながら、借り入れの返済は滞らずしている模様。

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ニワトリを飼っているおうち posted by (C)nekodemo

サンプルが2人だけだけど、融資をはじめとしたTYMの支援のおかげで生活が改善されているのは間違いないと思われた。
特に、お金の借り入れだけでなく、保険・共済的な機能の提供もあるようで、これはすごくいいなと思った。
さらには、借り入れをしている人たちを集めるミーティングの場があって、それは借入金の定期返済をキャッシュの手渡しで行う場でもあるんだけど、そこに借入者同士が集うことでコミュニティの場になっていることも感じた。ビジネススキルやジェンダーのトレーニングやったり、健康診断やったりすることもあるそうな。


■TYMの特徴


融資以外になんでそんなことやってるかというと、今回おじゃましたマイクロファイナンス機関の「TYM」は、もともとベトナムの女性連合会というような組織が大元にあるからだそうだ。だからTYMは女性にしか貸し出しをしないし、そもそも女性の地位向上を目指しているということだ。
貧困家庭向けの融資以外にも、女性の地位向上を目的としたイベントの開催なども行うし、また貧困から脱却したあとでも受けられる融資や、保険、貯金のメニューなども用意しているとのことだった。
最低限の貧困向け融資に留まらず、より上位の人たちをもっと引き上げていくための施策があるようだ。
また、障害があったり難病だったり少数民族等マイノリティへの融資もしているとのことだった。

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TYMの支店(左の建物) posted by (C)nekodemo


■貸し出す側から見た場合のリスク


一般的な融資だと、返してくれそうにない人には貸さない。しかしマイクロファイナンスの対象となる人は、そもそも貧困層だったり障害があったりするわけで、普通に考えたら与信審査通らない。が、社会貢献として貸し出しをするのである。
にもかかわらず、なんとTYMでは返済実績が99.9%とのこと。今回おじゃました村に至っては、「100%です」と言ってた。すげー。
なぜ全員返してくれるのかという身も蓋もない質問をしてみると、「返せない額じゃない(返せないような大金は貸してない)」ということを言っていた。それから実際現場を見させていただいた感じだと、少額ずつ毎週キャッシュで返済するというスキームをとってて、これは仕組みとしては面白いなと思った。事務コストはえらくかかるけど、月一というスパンで自動引き落としされるような仕組みより、貸し倒れが防げることは理解できる。(決済用の預金口座もないから物理的にこうやって回収するしかないってことなんだけど、それが結果として貸し倒れを防いでいる。)
さらに感心したのは「もし誰かが返せなくても、周囲にいる他の人たちが少しずつ出して返済するようなこともある」ということ。べつに強制ではないと言っていたけど、自発的に共同体で責任を負おうとしているわけだ。見えない連帯保証だよね。これは心底関心した。地縁関係で自発的な連保が起こるって、コミュニティが成立していなければ無理である。

なお個人的に調べたところによると、日本でも、むかしは地域で連帯保証するようなものがあったらしい。戦後、地域の商店街組合が月賦販売のための「チケット」というものを発行し、そのチケットは地域の連帯保証で利用されていたとのこと。「地域の絆が強かった当時は、こういった仕組みに違和感はなかったようです」(日経文庫 クレジットの基本/水上宏明)

いやぁ、コミュニティが生きてると本当に強い。
日本で、金融サービスでコミュニティを形成して貸し倒れを無くすっていうのは、もう聞かない。けれど、他のビジネスではいろいろな例を見かける。女性フィットネスのカーブスになぜ退会者が少ないかというと、会員が入会すると、他の会員と友だちになっちゃうから「やめるにやめられない」みたいな話である。


■TYMの与信モデル


日本で貸し出しを行うとすれば、借りたいと言ってる人の年収や資産状況、他の負債などを審査することになるが、TYMではそういう審査はしない。資金使途やどういう資金計画で返済していくかなどはもちろん聞くようだが、大事なのは本人のやる気みたい。で、その人の周囲からの評判も貸し出しの重要な審査ファクターになっているらしい。そこから漏れて借入できない人も少なからずいるようで、その人たちはどうなるんだとも思うけど、金融商品のリスク管理としては、そういう定性的なものを用いて貸し倒れを低くしているということで、感心した。人間関係が構築されてないとそんなこと出来ないもの。

一方で、私を含め今回参加した投資家たちは、日本の貸し出しシステムをベースにイメージして質問してたので、いまいちこの定性的なスキームを理解しきれなかったようにも思う。例えば現地の顧客管理のシステム(CRMみたいな)を見せてもらったのだが、顧客情報は入っているけど返済履歴のような途上与信に使えるデータがなかった。(もしかしたら別にあるのかもしれないかもと思ったけど。)
でも、そんなものは無くてもしっかり貸付金は回収できてるわけだし、へんにシステムつくって定量化を計るよりもうまくまわってていいなぁと思ったのも事実である。
今は顧客が8.8万人いて、既に規模はでかいが、もっとでかくなって細部まで見渡すことが難しくなったとき、はじめてこういう管理システムが必要になるのかもしれない。でもそんなふうになっちゃったらマイクロファイナンスとしての魅力も放棄することになるのだろうか。きっとそのときは、ベトナムの農村の社会関係が変化するときなんだろう。


■ベトナムの現状


インフレ率は2013年見通しで8.8%。
実質GDP成長率は2013年見通しで5.2%。成長はここ数年鈍化しているというが、それでも日本と比較してしまうと全然違う。
いまのベトナムの市中金利が何%かメモったやつがどっかいっちゃったのでアレなんだけど、「成長してる国は違うなぁ」という感想を持つぐらいの金利だった。ちなみにマイクロファイナンス機関が貸し出す金利は、銀行が貸し出す金利よりも安く設定している様子。それでも日本の感覚からしたら超高いんだけど、インフレ率・経済成長率から考えればべつに問題ないのだろうか。
融資を受けた人たちがちゃんと返済してくれるということは、彼女たちの商売が計画通りにうまくいっているということで、現代日本のようにもう商売のパイがないということはなく、仕入れさえできればけっこう商売できるような環境なのかなと感じた。


■TYMの資金調達方法


TYMは、自己資本のほか、預貯金と、このファンドのような外部からの資金調達で貸出のためのお金を賄っている。28%が自己資本、預貯金が35%、外部からの調達が28%だそうだ。(なぜか合計が100%にならない?)
自己資本は、政府からの出資が入っているとのこと。しかしこれだけではまだ将来計画的にはお金が足りないそうで、ファンドを通して資金募集中だそうです。

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説明を聞いているときのグラフ posted by (C)nekodemo


■投資としての魅力


為替リスクは置いといて、TYMの運用は好調なので投資先としても魅力が高い。去年のミュージックセキュリティーズ募集のベトナムファンド1年目の利回りがいくらかっていうのも聞いたけど、ここで書くのはやめておこう。
(投資は自己責任ですよ!)


というわけで、いろんなスタディができました。

しかし、今回のスタディツアーだけではまだ見えないこともあり、新たに沸いてきた疑問もある。
よって次は個人的に、ベトナム人に話を聞いてみようという気になりました。
ということで、今から私の唯一のベトナム人の友だち(日本在住)に話を聞きにいってきます!
その報告はまた次回