パラリンピックの開会式の演出を、ウォーリー木下氏が務めたと聞いて、その映像を見てみた。
なんだか、あれやこれやの諸問題で批判されてきたオリンピック・パラリンピックの中で、ようやく演劇人が一矢報いたな、という感想を持ってしまった。
オリンピックの開会式・閉会式がひどかったらしいから、その反動もあるのだろうけど、どうやらパラリンピックの開会式は評判が良いそうじゃないか。
見たか、利権と遠い演劇人がこういうところで活躍するんだぞエッヘン、という気分に、業界の端くれの人間として思うわけである。
なぜなのかよくわからないのだが、オリンピックの開会式・閉会式には私の知り合いは一切かかわっていないのだが(いや、かかわってても恥ずかしくて言わないのかもしれないけど)、パラリンピックの開会式には知っている人が何人か関わっていたと聞いている。
ジャンル的にはオリンピックの開会式・閉会式も、パラリンピックの開会式も、似たようなくくりだと思うのだが、パラリンピックのほうにだけ知り合いが多いというのは、それだけ在野の演劇人が起用されているということのような気がする。

在野の演劇人の代表が、ウォーリー木下氏である。
思えば、このポジションにウォーリー木下氏ほど適任な人もいないだろう。
小林賢太郎氏のような有名人でもない、ケラリーノ・サンドロヴィッチほど名前も憶えられていない、けれど実績がある演出家。そして何より小劇場の出身者である!

かつて世界一団という劇団があり、その演出をしていたのがウォーリー木下氏だ。世界一団は関西の劇団だった。学生時代に、友人が世界一団の大ファンで、よく関西まで観劇をしに遠征していたのを思い出す。
また、東京では、多摩センターでおこなわれていた多摩1キロフェスというイベントのディレクターにウォーリー木下氏が就任していて、それを見に行ったら案の定 学生時代の友人に出くわす、という出来事もあった。(大学を卒業してからだいぶ経ってたのに!)

ウォーリー木下氏がパラリンピック開会式に適任だなと思ったのは、そういう小劇場的な実績も去ることながら、私的にはノンバーバル・パフォーマンスでの圧倒的な存在感をあげたい。

ノンバーバル・パフォーマンスとは、つまり言葉を使わないパフォーマンスなわけで、日本語を用いないパラリンピックの開会式にぴったりだ。
日本で最も気合が入っているノンバーバル・パフォーマンス「GEAR」は、その立ち上げからウォーリー木下氏が入っていたと聞く。また、「GEAR」以外にも、「MANGA Performance W3(ワンダースリー)」での、ウォーリー木下氏演出による素晴らしいノンバーバル・パフォーマンスが記憶にある。

そういえば、パラリンピック開会式も、冒頭からギアの絵がたくさんでてきて「すわ、これはGEARじゃないか」と思ったわけである。
GEARはまだまだメジャーな存在ではないけれど、京都に行ったらぜひGEARを見てほしいものである。

私も何度もGEARを劇場で見ているけれど、毎回、泣くね!




パラリンピック開会式では、「有名人」と呼ばれる人も出ていたけれど、それもなんだか演劇人っぽかった。
歌手・坂本美雨が歌ってたけど、彼女も舞台に「役者」として出ている演劇人といってよかろう。過去の坂本美雨出演作でいうと、シアタートラムで上演していた音楽劇「ファンファーレ」がすごく記憶にあるが、これも世田谷パブリックシアターのほうじゃなくてシアタートラムの作品というのが小劇場感あるでしょう。

それから、デコトラに乗ってたALSの方は、一般社団法人WITH ALSの武藤将胤さんだった。ALS患者としてとても有名な方だけど、演劇関係(?)でいうと、小泉明郎作品「縛られたプロメテウス」に出演していた方でもある。いや、これは若干こじつけ感あるかもしれないけど。

とにかく、メジャーとは一線を画す、サブカル寄りの演劇人の力によるパラリンピック開会式なのであった。

そういえば、オリンピックというのは、スポーツの祭典だけではなく文化の祭典でもあるのです、ということを盛んに業界では言っていたわけで、実際に予算もついて、アーティスト「目」の「顔」(まさゆめ)が突如空中に浮かんだりしていたけれど、もはや文化のことは世間から忘れ去られているんだろうな……。